「妻を殺したかった男」 パトリシア・ハイスミス著
ハイスミス二作目の長編で、60年も前に書かれた作品。これほど優れた作品でも、とっくに絶版、古本で手に入れるしかない。残念なことだ。
冒頭、ある男が、妻を計画的に惨殺する。
そこから、裕福な弁護士夫婦の話へ。上品でゆとりのある友人たちに囲まれてパーティ開き合ったりして楽しくやっている。表面上は。けれど、弁護士の妻はかなり性格に問題有り、妻の態度のせいで離れていった友人も何人もいたりで、妻に離婚を切り出すまでに気持ちは離れている。
そんななかで、弁護士の男に信じられない出来事が起こる。
原題は「THE BLUNDERER」 失敗する人
この弁護士、間抜けなのだ。殺意を抱くほどの妻にたいしてもはっきりとした態度をとらない、ズルいとも言えるような煮え切らない男。
そして、不意打ちのように身に降りかかってきた事件で、軽薄としか言えないような間違いを重ねて、苦しい立場に追い込まれていく。
親友が忠告する。
「小出しにしないで、すべて打ち明けたほうがいい」
そのタイミングを逸してしまった、失敗する人。
パトリシア・ハイスミスの作品はどれも、細部にまでまったくスキがない。追い詰められた者の心理、心の揺れ、最後へと進むことになる案外小さなきっかけ。すべてが圧巻だ。胸が締め付けられるような読後感を味わえる。
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